「デンタルフロスに、体に良くないPFAS(ピーファス)という物質が入っているらしい」——ニュースやSNSでそんな話を見て、毎日のフロスを続けてよいのか不安になっていませんか。せっかく歯のために続けてきた習慣だけに、心配になりますよね。
結論からお伝えすると、ふだん使う一般的なフロスを、必要以上に怖がる必要はありません。ただし「素材を知って選ぶ」ことは大切です。この記事では、不安の発端になった研究の中身、米国歯科医師会などの見解、そして自分でできる素材の見分け方まで、現役歯科医師の立場でやさしく整理します。フロス選びの基本はデンタルフロスの選び方の記事も参考にしてください。
デンタルフロスのPFASとは?なぜ問題視されているのか

まず、PFASとは何かをはっきりさせておきましょう。PFAS(有機フッ素化合物)とは、水や油をはじく性質を持つ人工の化学物質の総称のことです。自然界で分解されにくく体や環境にたまりやすいため、「永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)」とも呼ばれています。
PFAS(有機フッ素化合物)とはどんな物質?
PFASは、撥水加工の衣類やフライパンのフッ素樹脂加工、消火剤など、身のまわりの幅広い製品に使われてきました。種類はとても多く、性質もさまざまです。近年、一部のPFASが健康や環境への影響を指摘され、世界的に注目されるようになりました。
なぜデンタルフロスにPFASが使われるのか(テフロン系の糸)
一部のフロスに、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=いわゆる「テフロン」が使われてきたためです。テフロンはツルツルとよく滑るので、歯と歯のあいだにスッと入りやすいフロスが作れます。この「滑りやすさ」を売りにした一部の製品で、テフロン系の糸が使われていました。
ここで大事なのは、すべてのフロスにPFASが入っているわけではないということです。糸の素材にはナイロンやポリエステルを使った製品も多く、それらはテフロン系ではありません。
もうひとつ知っておきたいのは、同じ「PFAS」でも性質が違うということです。PTFEは分子が大きいフッ素樹脂で、健康影響が研究されている「PFHxS」「PFOA」といった小さい分子のPFASとは、同じ物質ではありません。名前が似ているため混同されやすいのですが、体内への入りやすさや性質が異なります。デンタルフロスからPFASにどれくらいさらされるのか、健康への影響がどうなのかは、まだはっきり分かっていない段階です。

PFASって聞くと特別な物質に感じるけど、じつは撥水スプレーやフライパンのコーティングなど、昔から身近に使われてきたものなんだ。「フロス=全部あぶない」ではないから、まずは落ち着いて中身を見ていこう。
フロス使用と血中PFAS濃度に関連はある?研究の中身

不安の発端になったのは、2019年にアメリカで発表された研究です。結論を先に言うと、この研究は「あるテフロン系フロスを使う人は、PFASの一種の血中濃度が高い傾向にあった」という“関連”を示したもので、フロスが害の原因だと断定したものではありません。
2019年アメリカの研究でわかったこと
この研究は、中年女性178人を対象に、生活習慣と血液中のPFAS濃度の関係を調べたものです。その結果、「Oral-B Glide(オーラルビー・グライド)」というテフロン系フロスを使っていた女性は、使っていない女性に比べ、PFASの一種「PFHxS」の血中濃度が統計的に高かったと報告されました。あわせて18種類のフロスを検査したところ、グライド製品などから総フッ素が検出されています。ただしこれはPTFEを含む可能性を示す指標で、個々のPFASを製品から直接測定したものではありません。
この研究でわかっていないこと(因果関係・日本製品への当てはめ)
一方で、この研究には注意して読むべき点が2つあります。
- 「関連(相関)」であって「原因」の証明ではない:フロス以外の要因(食生活・住環境など)の影響を完全には切り分けられていません。
- 対象はアメリカの中年女性178人:日本の製品や日本人にそのまま当てはめられるデータではありません。
- 採血と聞き取りの時期にずれがある:血液を採った時期とフロス使用を聞き取った時期が数年離れており、関連の解釈には注意が必要です。
さらに大切な続報があります。この研究で名前が挙がったグライドは、その後メーカーが新素材へ切り替え、「PTFE・PFASは配合していない」と説明しています。ただし切り替えの時期や国・在庫によって仕様が異なる場合があるため、気になる方は手元の製品表示も確認してください。
2025年の研究では「フロス使用者のPFASはむしろ低め」
結論として、研究結果は一貫していません。2025年に米国の成人6,750人を対象に発表された研究では、フロスを使う人はPFASの一種「PFOA」がわずかに高かった一方、PFAS全体の量はむしろ低い傾向でした。この研究も因果関係までは示しておらず、「フロスがPFASの重要な取り込み源かどうかは、まだ確定していない」というのが現状です。

「血中濃度が高い」と聞くとドキッとするよね。でもこれは“関連が見られた”という段階の話で、フロスのせいで病気になったと分かったわけじゃないんだ。しかも当のメーカーは、もうテフロンをやめたと説明しているんだ。数字だけが独り歩きしないよう、冷静に見てほしい。
専門機関はフロスのPFASをどう見ている?

米国歯科医師会(ADA)は「現時点の証拠では懸念の必要はなく、フロスでの歯間清掃は続けるべき」との立場です。不安をあおる報道が広がった一方で、専門機関はより慎重に評価しています。
米国歯科医師会(ADA)の見解「フロスは続けるべき」
ADAは、この研究と報道について「結論を支持するにはデータが不十分」との見解を示しました。そのうえで、フロスや歯間ブラシによる毎日の歯間清掃を引き続き推奨しています。また、フロスを所管する米国食品医薬品局(FDA)も、PFASを理由としたフロスの使用制限は出していません。ただしこれは、個々の製品でPFASへの曝露がないと保証するものではありません。
海外の規制の動き
とはいえ、PFAS全体に対しては世界的に関心が高まっています。海外では、必要性の低いPFASの用途を幅広く制限しようという動きが進んでいます。フロスに限った話ではなく、「PFASという物質群とどう付き合うか」という大きな流れの中にある、と理解しておくとよいでしょう。
市販のデンタルフロスの素材の見分け方

結論として、糸の材質表示が「ナイロン」または「ポリエステル」なら、少なくとも糸本体はテフロン系(PTFE)ではありません。心配な場合は、パッケージや製品ページの「糸(フロス)の材質」欄を確認するのがいちばん確実です。ただし、材質欄で分かるのは糸そのものの素材までで、ワックスや香料まで含めた製品全体の「PFAS不使用」までは、この欄だけでは分かりません。より重視したい場合は、メーカーの表示や問い合わせも確認しましょう。
糸の素材の見分け方(3つの言葉をチェック)
- 「ナイロン」「ポリエステル」と書かれている → テフロン系ではありません。国内でもこの素材の製品が広く販売されています。
- 「PTFE」「テフロン」「フッ素樹脂」と書かれている → テフロン系です。気になる方は避けるか、素材を確認して選びましょう。
- 「なめらかに滑る」を強く売りにした一部の海外製旧タイプは、以前テフロン系のことがありました(前述のとおり現在は切り替えが進んでいます)。
代表的な歯科向けフロスの素材
| タイプ | 糸の素材 | テフロン系(PTFE)か |
|---|---|---|
| フロアフロス(オーラルケア) | ポリエステル(ワックス付) | いいえ |
| テフロン系フロス | PTFE | はい |
歯科医院で扱われる歯科向けのフロスは、ナイロンやポリエステルを使ったものが中心です。テフロン系が気になる場合も、まずは製品の「材質」表示を確認するのが、いちばん分かりやすい判断方法です。

むずかしく考えなくて大丈夫。パッケージの「材質」に“ナイロン”か“ポリエステル”と書いてあれば、テフロン系じゃないんだ。歯科医院で扱っているフロスの多くはこのタイプだよ。迷ったら、かかりつけで聞いてみてね。
フロスはやめないで。歯科医師としての結論

結論は「素材を知って選び、フロス習慣は続ける」です。フロスをやめてしまうことのデメリットのほうが、はっきりしているからです。
フロスをやめるリスクのほうが確実
歯と歯のあいだは、歯ブラシだけでは汚れが残りやすい場所です。ここを放置すると、虫歯や歯周病(歯ぐきの病気)が進みやすくなります。歯間部のプラーク(歯垢/細菌のかたまり)をためないことは、歯を長く保つうえで大切です。一方、ナイロンやポリエステルのフロスでPFASの健康被害が出るという確かな証拠は、現時点ではありません。
つまり、確かな根拠のある「歯間清掃の大切さ」を、まだ不確かなPFASの心配だけで手放してしまうのは、もったいないと言えます。
それでも気になる人の現実的な選択肢
PFASがどうしても気になる方は、次のような方法があります。
- 糸がナイロン/ポリエステル素材のフロスを選ぶ。
- フロスが苦手なら、歯間ブラシなど別の歯間清掃グッズに置き換える(清掃そのものはやめない)。
- 自分に合う道具やサイズが分からないときは、歯科医院で相談する。
デンタルフロスとPFASのよくある質問(FAQ)
Q. 今使っているフロスに「PTFE」と書いてありました。すぐ健康被害が出ますか?
A. すぐに健康被害が出ると示すデータはありません。心配な場合は、次からナイロンやポリエステル素材のフロスに替えれば十分です。フロス自体をやめる必要はありません。
Q. ワックス付きフロスにもPFASは入っていますか?
A. ワックス(コーティング)とテフロン系(PTFE)は別物です。ワックス付き=PFASというわけではありません。判断の基準は、あくまで「糸の材質」がナイロン・ポリエステルか、PTFEかです。
Q. 子どもに使っても大丈夫ですか?
A. ナイロンやポリエステルの糸はテフロン系(PTFE)ではありません。子どもの歯間ケアは虫歯予防に役立ちます。年齢や手先の発達に応じて保護者が手伝い、製品の対象年齢や注意表示に従って使いましょう。
Q. フロスの「フッ素配合」はPFASのことですか?
A. 別物です。フロスに配合される「フッ素(フッ化ナトリウムなどの無機フッ化物)」と、PFAS(有機フッ素化合物)は別の物質です。実際の配合成分は製品表示で確認できます。混同しないようにしましょう。
Q. 結局、フロスは続けたほうがいいですか?
A. はい。素材を確認したうえで、毎日の歯間清掃は続けることをおすすめします。歯と歯のあいだの汚れを落とすことは、虫歯・歯周病予防にとって大切です。
まとめ:正しく知って、フロス習慣は続けよう

デンタルフロスとPFASについて、大切なポイントを整理します。
- 不安の発端は2019年の研究だが、これは「関連」を示したもので、害の「原因」を証明したものではない。2025年の研究ではフロス使用者のPFASはむしろ低めで、結果は一貫していない。
- 名指しされたテフロン系フロスは、メーカーが新素材へ切り替え、PTFE・PFAS不使用と説明している。
- 米国歯科医師会は「フロスは続けるべき」との立場で、PFASを理由とした使用制限も出ていない。
- 糸の材質が「ナイロン」「ポリエステル」なら糸本体はテフロン系ではない。心配なら材質を確認して選べばよい。
- 歯間清掃をやめると歯間部の汚れが残りやすい。自分に合った方法で続けることが大切。
正しく知れば、必要以上に怖がる話ではありません。素材を確認して、毎日のフロス習慣を前向きに続けていきましょう。自分に合うフロスや使い方に迷ったら、歯科医院で気軽に相談してください。
参考文献・出典
- Silent Spring Institute「Dental flossing and other behaviors linked with higher levels of PFAS in the body」https://silentspring.org/news/dental-flossing-and-other-behaviors-linked-higher-levels-pfas-body
- Silent Spring Institute「Oral-B stops using Teflon in its popular Glide dental floss」https://silentspring.org/news/oral-b-stops-using-teflon-its-popular-glide-dental-floss
- 「Association Between Serum Levels of Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances and Dental Floss Use」Journal of Clinical Periodontology(2025)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39797715/
- American Dental Association「ADA Statement on Study Involving Dental Floss」https://commons.ada.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1119&context=newsreleases
- 株式会社オーラルケア「フロアフロス」製品情報 https://www.oralcare.co.jp/product/post-24.html



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