「電動歯ブラシを買ったけれど、これで合っているのかな」——当てるだけでいいのか、動かしてもいいのか、歯磨き粉はつけるのか。意外と教わる機会がありませんよね。
先に結論をお伝えします。電動歯ブラシは、強く押し付けたり速くゴシゴシ動かしたりせず、毛先を軽く当てて少しずつずらしていくのが基本です。目安は「3〜5秒当てたら、隣にずらしていく」こと。そして歯磨き粉は、使ってください。
この記事は、厚生労働省e-ヘルスネットと4学会合同の提言、各メーカーの公式ページを照合して整理したものです。とくに歯磨き粉の量は、メーカーと学会で推奨が一致していません。その事実と、どう考えるかまで、現役歯科医師の視点でお伝えします。機種選びから知りたい方は電動歯ブラシの選び方もあわせてご覧ください。
電動歯ブラシは「当てるだけ」で合っている?
ほぼ合っています。電動歯ブラシは、毛先の細かい動きを機械がつくってくれる道具です。使う人の仕事は「正しい場所に、軽く当てること」と「少しずつ移動させること」の2つだと考えてください。
手磨きとの違いは「往復を本体がしてくれる」こと
手磨きでは、毛先を細かく往復させて歯垢(プラーク/細菌のかたまり)を落とします。電動歯ブラシでは、その往復を本体がしてくれます。そのため、手磨きの癖のまま速く大きく動かすと、毛先を狙った場所に当て続けにくくなります。
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、電動歯ブラシ(音波歯ブラシ)の使い方として「歯と歯ぐきの境目にブラシの毛先を軽く当てます。3〜5秒当てたら、隣にずらしていきます。」と紹介されています。この「軽く当てて、3〜5秒で隣へ」がいちばんの基本です。
力加減は「毛先が広がらない程度」
各社の公式ページに共通して書かれているのが、強く押し付けないことです。パナソニックは「ブラシを強く押し付けると毛先が広がり、歯茎や口中の粘膜を傷つける原因になる恐れ」があると説明しています。フィリップスも「ブラシを歯に軽く押し当てるだけで、効果的にブラッシングできます」としています。
目安は、毛先が広がって見えたら力が強すぎると考えることです。強く押し付けると、機種本来の清掃性能を発揮しにくくなることがあります。押しつけ防止センサーが付いている機種なら、音や光の合図をそのまま信じてください。

電動歯ブラシは、力を入れた分だけ磨けるわけじゃないんだ。むしろ強く押すと毛先が寝てしまって、歯と歯ぐきの境目に毛先が入らなくなる。「軽く当てて、数秒待ってからずらす」くらいがちょうどいいよ。
当てる角度と、方式ごとの動かし方

ここは誤解されやすいところです。当てる角度の考え方は各社で似ていて、違いが出るのは移動のしかたです。
角度:歯と歯ぐきの境目は約45°、かみ合わせは垂直
フィリップスは「歯と歯ぐきに対してブラシを少し斜め(約45°)にあててください」「かみ合せ面に対して垂直にあててください」と案内しています。パナソニックも、かみ合わせは「ブラシを垂直に当てて振動が均等に伝わるようにしましょう」、境目は「斜め45°の角度でブラシを当て、くぼみ部分の汚れを取り除く」としています。
つまり「歯ぐきのきわは斜め45°、かみ合わせの面は垂直」が目安です。ただしこれはこの2社の公式ページで確認できた案内で、機種やブラシヘッドの形によって推奨が異なることもあります。手元の取扱説明書もあわせて確認してください。
回転振動式(オーラルB):1本ずつ当てて、隣へ移す
回転振動式とは、丸い小さなヘッドが細かく左右に回転して歯垢をこすり落とすタイプのことです。ヘッドが歯1本分ほどの大きさなので、1本の歯に当てて数秒待ち、隣の歯へ移すという使い方になります。
機種ごとの違いはオーラルB iOシリーズの違いでまとめています。
音波式(ソニッケアー・ドルツ):軽く当てて、ゆっくり動かす

音波式とは、細かい高速振動と、それによって起こる水流で歯垢を落とすタイプのことです。ヘッドが細長いため、歯ぐきのきわに軽く当てたまま、ゆっくり移動させる使い方が基本になります。
なお「まったく動かさない」わけではありません。フィリップスの公式サポートでは「ブラシヘッドを歯の上でやさしくゆっくり行ったり来たり動かすと、歯ブラシの長い毛が歯の間をきれいにします。」と案内されています。速く大きく動かすのは避け、ゆっくり小さく動かすと考えてください。
それぞれの機種の違いはソニッケアーのシリーズ比較とドルツの違いで比較しています。
方式を問わず避けたいのは「速くゴシゴシ動かす」こと
どちらの方式でも、手磨きのように速く往復させるのは避けてください。毛先を狙った場所に当て続けにくくなるためです。「軽く当てる → 3〜5秒待つ → 少しずらす」のくり返しだと考えると、うまくいきます。
磨く順番と時間の配分

時間をかけたつもりでも、同じ場所ばかり磨いていることは珍しくありません。順番を決めてしまうのがいちばん確実です。
口の中を4つに分けて、均等に
オーラルBの公式ストアでは「口腔内を四分割し、それぞれを各30秒から45秒で磨くことをお勧めします(全体では、2〜3分)」と案内しています。フィリップスも「口腔内の上下・表裏4つのセクションを均等にブラッシングできます」と説明しており、考え方は同じです。
多くの機種に付いている30秒ごとの区切り機能や2分タイマーは、この4分割のためのものです。合図が鳴ったら次の区画へ移る、と決めておけば、磨く場所の偏りはかなり減らせます。1本あたりの目安は、先ほどの3〜5秒が参考になります。
電動でも磨き残しやすい3か所
電動歯ブラシに替えても、毛先が届きにくい場所は変わりません。意識して時間を足したいのは次の3か所です。
- いちばん奥の歯の、さらに奥側(親知らずがある方はとくに)
- 歯の裏側(内側):鏡で見えないぶん、当て忘れが起きやすい場所です
- 歯が重なって並んでいるところ:段差にヘッドが乗り上げてしまいます
この3か所は、ヘッドの大きいブラシでは毛先を当てにくいことがあります。毛束が1つにまとまったワンタフトブラシを1本足すと、狙って磨きやすくなります。

磨き残しって、実は「時間が足りない」より「同じところばかり磨いている」ことが多いんだ。右上の外側から始めて、ぐるっと一周する——そんなふうに順番を決めてしまうと、それだけで抜けが減るよ。
電動歯ブラシに歯磨き粉は使う?
結論からお伝えします。使ってください。「電動歯ブラシに歯磨き粉はいらない」という説明を見かけますが、それはフッ化物による虫歯予防の効果まで手放すことになります。
「使わなくてもいい」の意味
たしかにメーカーは、歯磨き粉なしでも磨けると説明しています。フィリップスは「ソニッケアーは音波水流によって磨くため、歯磨き粉なしでも使用できます」、オーラルBの公式ストアも「正しくブラッシングすれば歯磨き粉を使わなくても十分に歯垢を落とせます」としています。
ただしこれは「歯垢を落とす」という話です。歯磨き粉に配合されたフッ化物には、歯垢を落とすのとは別に歯の再石灰化を助けて虫歯を防ぐはたらきがあります。落とす話と防ぐ話は分けて考えてください。
量は「米粒大」?「1.5〜2cm」?——推奨が一致していません

ここが今回いちばんお伝えしたい部分です。公式に示されている量が、メーカーと学会で大きく違います。
| 推奨元 | 6歳以上〜成人の量 | 公式ページに併記されている記載 |
|---|---|---|
| 4学会合同の提言 (日本口腔衛生学会ほか・2023年) | 歯ブラシ全体(1.5〜2cm程度) | フッ化物濃度は1400〜1500ppmF/うがいは少量の水で1回のみ/就寝前を含め1日2回 |
| オーラルB(公式ストア) | 米粒大 | 「正しくブラッシングすれば歯磨き粉を使わなくても十分に歯垢を落とせます」 |
| フィリップス(公式) | 米粒程度 | 「歯磨き粉なしでも使用できます」「歯みがき粉が飛び散らないよう、ブラシヘッドを口の中に入れてからスイッチを入れて下さい」 |
| パナソニック(公式) | 米粒大 | 「研磨剤不使用の歯みがき粉を使用すれば歯の磨きすぎによる摩耗を防げます」「発泡剤不使用の歯みがき粉であれば、泡が立ちすぎることで電動歯ブラシの使用を邪魔されるようなこともなく」 |
※2026年7月時点で、各社公式ページおよび4学会合同の提言「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」に記載されていた内容です。推奨量が異なる理由を各社が明記しているわけではありません(泡立ちや摩耗に触れているのはパナソニックのみでした)。
歯科医師としての見解:虫歯予防を優先するなら学会の量に寄せる
ここからは資料に書かれた事実ではなく、自分の考えです。
虫歯を防ぐことを重視するなら、学会が示す量に寄せるほうが理にかなっていると考えています。フッ化物は量が多いほど口の中に残りやすく、それが予防の要になるためです。
そのうえで、泡だらけになって磨きにくいという問題は、量を減らす以外にも、低発泡タイプを選ぶという方法があります。ただし使用量は、歯磨き粉側の表示と電動歯ブラシの取扱説明書もあわせて確認してください。
選ぶなら「低発泡・低研磨・フッ化物1400〜1500ppmF」
電動歯ブラシと相性がよいのは、次の条件を満たす歯磨き粉です。
- 低発泡:泡があふれにくく、長く磨けて、すすぎも少量で済みます
- 低研磨または無研磨:研磨剤による摩耗が気になる場合の選択肢です。あわせて強く押し付けないことも大切です
- フッ化物1400〜1500ppmF(6歳以上):虫歯予防の主役です。国内製品では1450ppmFの表示が一般的です
くわしい選び方は歯磨き粉の選び方でまとめています。
研磨剤入りが使えるかは、機種の取扱説明書で確認を
ここは見落とされがちな注意点です。ライオンは公式Q&Aで、「清掃剤(研磨剤)配合が使用できるかどうかは、お使いの電動歯ブラシの取り扱い説明書でご確認をお願いします」と案内しています。使えない場合は研磨剤を配合していない歯磨き粉を選ぶことになります。
自分が使っているものでいうと、夜に使っているシステマSP-TジェルPlusは研磨剤無配合のジェルで、ライオン公式も「研磨剤の入っていないハミガキ剤」として挙げています。フッ化物も1450ppmF配合です。研磨剤が使えない機種での選択肢になりますが、使用前に電動歯ブラシ側の取扱説明書も確認してください。
朝に使っているチェックアップスタンダードは「低研磨」であって「無研磨」ではありません。ライオンは低研磨を「研磨剤が一般的なハミガキ剤より少ない製品」、無研磨を「研磨剤が配合されていない製品」と区別しています。電動歯ブラシで使う場合は、その機種の取扱説明書で研磨剤入りが使えるかを確認してからにしてください。
なお、研磨剤無配合の製品には研磨剤による着色汚れ(ステイン)の除去は期待できません。着色への対応は配合成分によって異なるため、気になる場合は別の歯磨き粉と使い分けるほうが現実的です。

泡だらけになるからと歯磨き粉を減らす人は多いんだけど、減らすとフッ化物の量まで減ってしまう。減らす前に、泡立ちの少ないタイプに替えるという手もあるよ。
すすぎ方で、フッ化物の残り方が変わります

せっかくフッ化物入りの歯磨き粉を使っても、最後に何度もすすぐと流れてしまいます。ここは今日から変えられるポイントです。
うがいは「少量の水で1回だけ」
4学会合同の提言では、6歳〜成人について「うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。」と示されています。何度もすすぐ習慣がある方は、まずここを見直してみてください。
低発泡の歯磨き粉が使いやすいのは、この点でも同じです。泡が少なければ、少量の水ですすいでも気持ち悪さが残りにくくなります。
磨くのは「就寝前を含めて1日2回」
同じ提言では「フッ化物配合歯磨剤を利用した歯みがきを、就寝前を含め1日2回行う。」とされています。寝る前の1回を外さないことが、電動でも手磨きでも共通して大切です。
やってはいけない使い方4つ
ここまでの内容を、避けたい習慣の形で整理します。
1. 強く押し付ける
毛先が広がるほど押し付けると、機種本来の清掃性能を発揮しにくくなることがあります。強い力で磨き続けることは、歯ぐきや歯の根元を傷める要因の一つと考えられています。ただし歯ぐきが下がる原因は歯周病や歯並びなど複数あるため、押し付けだけが原因とは限りません。
2. 手磨きのように速くゴシゴシ動かす
毛先を狙った場所に当て続けにくくなります。軽く当てて、3〜5秒待って、ずらす——このリズムに慣れてください。
3. 何度もすすぐ
フッ化物を洗い流してしまいます。少量の水で1回が推奨です。
4. 電動にしたからとフロスをやめる
これがいちばんもったいない失敗です。歯ブラシだけでは、歯と歯の間の清掃が不十分になりやすいためです。厚生労働省も、歯間部の清掃にはデンタルフロスや歯間ブラシを使うことをすすめています。使い分けはデンタルフロスの選び方でまとめています。
それでも磨けている気がしないときは
道具と使い方を整えても、不安が残ることはあります。そのときの進め方です。
足すなら、ワンタフトとフロス
本体を買い替えるより先に、届いていない場所に届く道具を足すほうが効果的です。奥歯の後ろや重なった歯にはワンタフトブラシ、歯と歯の間にはフロスや歯間ブラシ。電動歯ブラシは「面」を担当する道具だと考えると、役割分担がはっきりします。
磨けているかどうかは、歯科医院で確認できます
磨き残しは自分では見えにくいものです。歯科医院では、磨けていない場所を確認したうえで、その人の歯並びに合った当て方を相談できます。気になる状態が続く場合は、かかりつけの歯科医院で相談してください。
電動歯ブラシの使い方でよくある質問(FAQ)
Q. 電動歯ブラシを自分で動かしてもいいですか?
A. 動かして問題ありません。ただし手磨きのように速く大きく往復させるのは避けてください。公的機関の情報では「3〜5秒当てたら、隣にずらしていきます」と案内されています。ソニッケアーのように「やさしくゆっくり行ったり来たり動かす」と案内されている機種もあります。
Q. 歯磨き粉は使わないほうがいいと聞きました。
A. メーカーは「なしでも磨ける」と説明していますが、それは歯垢を落とす話です。フッ化物による虫歯予防の効果は歯磨き粉から得るものなので、使うことをおすすめします。
Q. 歯磨き粉の量は「米粒大」と「1.5〜2cm」のどちらが正しいですか?
A. 6歳以上について、4学会合同の提言は1.5〜2cm、電動歯ブラシメーカーは米粒大を案内しており、推奨が一致していません。理由は各社とも明記していません。自分は虫歯予防を優先して学会の量に寄せる考えですが、泡立ちが気になる場合は低発泡タイプを選ぶ方法もあります。
Q. すすぎは何回すればいいですか?
A. 4学会合同の提言では、6歳〜成人は「うがいをする場合は少量の水で1回のみ」とされています。何度もすすぐとフッ化物が流れてしまいます。
Q. 電動歯ブラシがあればフロスは不要ですか?
A. 不要にはなりません。歯ブラシだけでは歯と歯の間の清掃が不十分になりやすいため、フロスまたは歯間ブラシを1日1回使ってください。
Q. 力を入れないと磨けている気がしません。
A. 毛先が広がるほどの力は逆効果です。物足りなく感じる場合は、力ではなく当てる時間と場所を見直してみてください。気になる状態が続く場合は、かかりつけの歯科医院で磨き方を確認してもらうと安心です。
まとめ:軽く当てて3〜5秒、量は減らさず、すすぎは1回

電動歯ブラシの使い方は、次の5つに整理できます。
- 軽く当てて、3〜5秒で隣へずらす。毛先が広がる力は強すぎます
- 角度の目安は、歯ぐきのきわが約45°、かみ合わせは垂直(フィリップス・パナソニックの公式案内)
- 速くゴシゴシ動かさない。音波式は「ゆっくり小さく」動かす
- 歯磨き粉は使う。低発泡・低研磨で、フッ化物1400〜1500ppmFのものを選ぶ
- すすぎは少量の水で1回。磨くのは就寝前を含めて1日2回
道具を替えることより、この5つを続けることのほうが結果に効きます。機種選びから見直したい方は電動歯ブラシの選び方もあわせてご覧ください。

正直なところ、高い機種に買い替えるより、当て方とすすぎ方を直すほうが効果は大きいと思うよ。今日からできることばかりだから、まずはすすぎを1回にするところから試してみてほしいな。



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