日中の食いしばりのやめ方|TCH(歯列接触癖)を減らす3つの手順

歯ぎしり・食いしばり

パソコンやスマホを見ているとき、ふと気づくと上下の歯がぴったり合っている。そんな経験はありませんか。慌てて力を抜いても、しばらくするとまた同じことをくり返している方は少なくありません。

じつは日中の食いしばりは、意志の弱さではなく「クセ」の問題です。ただ「気をつけよう」と思うだけでは変わりにくく、手順を決めて取り組むほうが近道になります。

この記事では、日中の食いしばり(TCH)が起こる理由と、今日から始められる3つの手順、歯科医院に相談する目安を、現役の歯科医師がやさしく解説します。夜の歯ぎしりも気になる方は、歯ぎしりの原因とは?もあわせてどうぞ。

日中の食いしばりは「知る・気づく・くり返す」で減らしていく

日中の食いしばりは、生活の中で身についたクセです。「食いしばらないぞ」と力むより、気づいたときにふっと力を抜くという小さな行動をくり返して、接触の頻度を減らしていくのが基本になります。

上下の歯が触れているのは1日10〜12分程度

ふだん、上下の歯は触れていないのが自然な状態です。安静にしているとき、前歯のところで2〜3ミリのすき間が空いているのが理想とされています。

上下の歯が接触している時間は、食事や会話も含めて通常は1日10〜12分程度とされています。1日は1440分ですから、触れ合っている時間はごくわずかだということです。

やめ方の3つの手順(早見表)

手順やることねらい
手順1理想の状態(歯は離れている)を知る今の自分の状態と比べられるようにする
手順2気づいたら深呼吸をして歯を離す力の抜けた状態を体に覚えさせる
手順3付箋などを使って短期集中でくり返す気づく回数を増やして習慣にする

日中の食いしばり(TCH)とは?

TCH(歯列接触癖)とは、会話や食事をしていない安静時にも、上下の歯を持続的または頻繁に接触させている習慣のことです。英語のTooth Contacting Habitの略で、日本語では上下歯列接触癖といいます。

「強く噛む」だけが食いしばりではない

目が覚めているあいだの食いしばり(覚醒時ブラキシズム)には、強くぐっと噛みしめる動き、軽く歯を触れさせ続ける動き、さらに歯を接触させずに下あごを緊張させる動きなどがあります。この記事では、そのうちTCHを中心に説明します。

やっかいなのは、軽く触れ続けるタイプです。力が弱く痛みも出にくいため自分では気づけませんが、あごの筋肉はずっと縮んだままになり、自覚のないまま2〜3時間続くケースも多いとされています。強くなくても、長く続けば負担になるということです。

夜の歯ぎしりとどう違う?

日中と睡眠中では、起こる状況も対策も異なります。同じ「歯ぎしり」の仲間ですが、分けて考えたほうが対策を選びやすくなります。

日中の食いしばり(覚醒時)夜の歯ぎしり(睡眠時)
起きている状態目が覚めているとき眠っているとき
関係する要因行動・姿勢・心理的な要因などが関係眠りの中で起こる脳のはたらきが関係
音の傾向基本的に鳴らないギリギリと音が出ることがある
気づけるか気づけば自分で止められる自分では止められない
主な対策クセを見直すセルフケアマウスピース(ナイトガード)など

※あくまで傾向です。分類は日本歯科医師会「テーマパーク8020」および日本顎関節学会「顎関節症治療の指針2020」の記載をもとに作成

夜の歯ぎしり対策については、歯ぎしり用マウスピース(ナイトガード)の効果・費用で詳しく説明しています。

なぜ日中に食いしばってしまうの?

日中の食いしばりの原因は一つではありません。姿勢・作業・ストレスなど、複数の要因が重なって起こります。

前かがみの姿勢(スマホ・パソコン)

下を向く作業が多いと、自然とあごが閉じる方向に向かいやすくなります。スマホをのぞき込む姿勢、画面が低いパソコン作業、猫背などは、それだけで歯が触れやすい状態をつくります。頬づえや、重い荷物をいつも同じ側で持つクセも見直したいポイントです。

集中する作業をしているとき

長時間のデスクワークや単純作業、編み物、絵画、料理などは、日中に歯が接触しやすい場面として挙げられています。集中しているときは、歯の接触に気づきにくい場面の一つだと考えてください。楽器の演奏、重い物を運ぶ作業、ウエイトトレーニングなども、くいしばりが起きやすい場面とされています。

ストレスや緊張

人はストレスを感じると交感神経のはたらきが優位になり、あごにも力が入りやすくなります。緊張する会議の前や、締め切りが迫っているときに歯を噛みしめていた、という感覚がある方も多いはずです。自分のかみ合わせが合っているかを一日中確かめている方が、その確認動作でTCHになってしまうこともあります。

しょう
しょう

TCHのやっかいなところは、力が弱くて痛みが出にくいぶん、本人が気づけないことなんだ。だから自覚しにくいのが当たり前で、意志が弱いという話じゃない。「していない」ではなく「気づいていないだけかも」から始めるのが、いちばんの近道だよ。

自分は食いしばっている?セルフチェック

日中の食いしばりは自覚しにくいため、時間を決めて確認する方法が役立ちます。

キッチンタイマー法

キッチンタイマー法とは、タイマーが鳴った瞬間に、自分の歯が接触しているかどうかを確認する方法です。日本歯科医師会のサイトでも紹介されています。診断ではなく、接触の頻度に気づくための目安として使ってください。

  • 10分おきにタイマーをセットする
  • 鳴った瞬間、歯が触れているか離れているかを確認する
  • 10回試して、10回とも接触していればTCHの可能性が高い
  • 1〜2回であれば、TCHの傾向は低い

スマホのアラームでも構いません。大事なのは「鳴った瞬間の状態」を見ることです。思い出したときに確認すると、無意識にもう歯を離してしまっているので、正確に測れません。

口や体に出るサイン

  • 舌の縁に、歯の形に沿ったギザギザの跡(舌圧痕)がある
  • 頬の内側に白い線や歯型がついている
  • 夕方になると、こめかみやエラのあたりが疲れている
  • あごを動かすと痛みや音がある
  • 歯が浮くような感じ、かみ合わせの違和感がある

ただし、舌や頬の跡だけでTCHとは判断できません。ほかの要因でも見られる所見なので、あくまで気づきの参考にしてください。自分も口の中を見せていただくときは、頬の内側の様子を気にしています。

日中の食いしばりのやめ方【3つの手順】

やめ方の柱は、①理想の状態を知る ②気づいたら深呼吸をして歯を離す ③くり返して習慣にする、の3つです。ここが記事のいちばん大事なところです。

手順1:理想の状態を知る

最初にやることは、「上下の歯は離れているのが普通」「理想は前歯のところで2〜3ミリのすき間」と知ることです。この基準を知らないと、自分がずれていることに気づけません。

手順2:気づいたら深呼吸をして歯を離す

歯が接触していることに気づいたら、深呼吸をします。深く息を吸い込むと自然と体が伸び、歯と歯のあいだにすき間が生まれます。これが理想の状態です。

「歯を離そう」と口元だけを意識するより、深呼吸のほうがうまくいきます。体全体の力が抜けるので、あごだけに集中しなくてすむからです。気づいていないときでも、思い出したら深呼吸をする、というくらいで構いません。

手順3:付箋は「短期集中」でくり返す

気づく回数を増やすために、付箋やメモを使う方法があります。「リラックス」「歯と歯にすき間」などと書いて、目につく場所にたくさん貼り、見るたびに状態をチェックして、触れていたら離す。これをくり返します。

ただし、大事なコツがあります。貼りっぱなしにすると、見慣れてしまって効かなくなるという点です。日本歯科医師会のサイトでも、貼り紙の方法は長期間より短期間・集中的に行うほうが効果的だと説明されています。

そこで自分は、次のような進め方をおすすめしています。

  • まずは短い集中期間を決めて、付箋を貼る
  • 貼る場所は、いちばん食いしばっている場面に絞る(パソコンの画面まわり、スマホの待ち受け、車のハンドルまわりなど)
  • 見慣れてきたら、貼る場所や言葉を変える
  • そのあとは「気づいたら深呼吸」だけを続ける

集中期間が終わったら、キッチンタイマー法でもう一度「10回中何回接触していたか」を数えると、変化を比べやすくなります。こめかみやエラの疲れ方も目安になります。どのくらいでクセが変わるかは人によって差があり、何日で治ると言い切れるものではありません。

しょう
しょう

「一日中ずっと意識してください」は、自分はすすめないようにしているんだ。ずっと気を張るのは無理だし、意識するほどあごに力が入る人もいる。狙うのは、気づく回数を増やすことだけでいい。気づいて、深呼吸して、忘れる。この「忘れていい」が続けるコツだね。

やらない方がいいこと

一日中ずっと意識し続けるのは長続きせず、気にしすぎること自体がストレスになります。また、夜用のマウスピースを自己判断で日中まで長時間使うのは避けてください。歯科で使うマウスピース(スタビリゼーションアプライアンス)は原則として夜間就寝時に使うもので、24時間使うと下あごの位置が変わるなどの副作用が出やすいと、日本顎関節学会の指針に明記されています。咬筋(こうきん/頬にある噛むための筋肉)のマッサージも、本来は歯科医師が場所と力加減を教えたうえで行うものです。自己流で強く押すと、かえって痛みが強くなることがあります。

日中の食いしばりを放っておくとどうなる?

軽い力でも長時間続くと、あごの筋肉や歯を支える組織に負担がかかります。代表的なのは、かみ合わせの違和感・知覚過敏・顎関節症です。

かみ合わせの違和感・知覚過敏

歯の根のまわりには、歯根膜(しこんまく/歯と骨のあいだにあるクッション)という繊細な組織があります。ここが押され続けると血のめぐりが悪くなり、かみ合わせの違和感や知覚過敏といった感覚の異常が出ることがあります。

顎関節症

歯を触れさせ続けると、口を閉じる筋肉が長時間縮んだままになって疲れます。あごの関節にも負担が加わり、顎関節症の発症や悪化につながると考えられています。

顎関節症の患者さんを対象にした2006年の研究では、52.4%の方にTCHが認められたと報告されています。ただし顎関節症の患者さんの中での割合であり、この数字だけでTCHが原因だと証明されるわけではありません。あごの痛みや口の開けにくさがある場合は、顎関節症の症状・原因・治療もあわせてご覧ください。

歯周病や入れ歯への影響

TCHだけで歯周病が起こるわけではありませんが、歯ぐきに炎症がある場合は持続的な力が負担の一つになる可能性があります。入れ歯を支える粘膜が押され続けて、痛みの原因になることもあります。

歯がすり減る・欠けるのは?

歯の破折や強いすり減りは、TCHだけで説明できるとは限りません。眠っているあいだの歯ぎしり、歯に入っている亀裂、詰め物や被せ物の状態なども含めて確認が必要です。朝起きたときにあごが疲れている方は、朝起きると顎が痛い・疲れる原因もあわせてご覧ください。

しょう
しょう

夜のマウスピースは、眠っているあいだのあごや歯を守るための装置なんだ。起きている時間のクセまでは面倒を見てくれない。だから夜の対策をしていても、昼のあごの疲れは別の話として考える必要があるんだね。

歯科医院に相談する目安は?

あごの痛み、口の開けにくさ、あごの音のいずれかが続いているときは、一度歯科医院で診てもらうことをおすすめします。

こんなときは相談を

  • あごや、こめかみ・エラのあたりが痛む
  • 口が開けにくい、あごを動かすと音がする
  • セルフケアを続けても、あごの疲れが変わらない
  • かみ合わせの違和感や知覚過敏が続いている

歯科でしてもらえること

まず行われるのは、症状の聞き取りと、あごの動き・筋肉の痛み・関節の音・歯や詰め物の状態の確認です。そのうえで習慣を見直す指導が行われ、顎関節症の場合は理学療法や薬、必要に応じて夜間用のマウスピースなどが組み合わされます。

なお、かみ合わせを削って調整する治療は、症状が出はじめた早い時期には行いません。痛みや炎症でかみ合わせが一時的に変化していることがあり、落ち着いたときに合わなくなってしまうためです。

何科に行けばいい?

まずは、かかりつけの歯科医院やお近くの歯科医院で構いません。より専門的な検査が必要な場合や、治療をくり返しても治らない場合は、専門医や大学病院を紹介してもらえます。標準的な診察や治療の多くは公的医療保険の対象です。

顎関節症の多くは、標準的な治療とセルフケアによって快方に向かうことが知られています。一方で、日常生活に支障が出るほどの症状に悩む方や、ほかの病気との見分けが必要な場合もあります。気になるところから相談してみてください。

しょう
しょう

あごの症状は、少し休めば軽くなることも多いんだ。ただ、同じことを何度もくり返しているなら、それは体からのサインだと思ってほしい。いきなり歯を削るような大がかりな話じゃなくて、まずはクセの確認から始められるからね。

よくある質問(FAQ)

Q. 日中もマウスピースを入れた方がいいですか?
A. 自己判断で日中まで長時間使うのは避けてください。歯科で使うマウスピースは原則として夜間就寝時に使うもので、24時間使用すると下あごの位置が変わるなどの副作用が出やすいとされています。必要かどうかは歯科医師に確認しましょう。

Q. 日中の食いしばりは自然に治りますか?
A. きっかけとなる場面(前かがみの姿勢、集中作業、ストレス)が変わらないままだと、そのまま続きやすいです。一方で、生活の中で身についたクセであるからこそ、気づいて離すことをくり返して接触の頻度を減らしていくことを目指せます。

Q. ガムを噛むのは食いしばり対策になりますか?
A. あごの負担という点では逆効果になることがあります。硬いガムを長時間噛み続けることは症状が出るきっかけになりやすく、あごに症状がある方には控えてもらう項目として挙げられています。スルメやフランスパンなど、硬くて噛む回数が多い食べ物も同じです。

Q. かみ合わせを削れば治りますか?
A. 症状が出はじめた早い時期に、かみ合わせを削る治療は行いません。痛みや関節の状態によって、かみ合わせが一時的に変わっていることがあるためです。まずは習慣の見直しから進めます。

Q. 咬筋のマッサージは自分でやっていいですか?
A. 歯科でも行われる方法ですが、本来は歯科医師が触る場所と力加減を教えたうえで行うものです。痛みがある方は自己流で強く押さず、歯科医院で教わってから始めると安心です。

まとめ

日中の食いしばりは、意志の強さではなくクセの問題です。次の3つを覚えておいてください。

  • 理想を知る…上下の歯は離れているのが普通。前歯で2〜3ミリのすき間、接触は通常1日10〜12分程度
  • 気づいたら深呼吸…口元だけを意識するより、深呼吸で体ごと力を抜く
  • 短期集中でくり返す…付箋は貼りっぱなしにせず、短い集中期間として使う

強い力でなくても、長く続けばあごや歯には負担になります。逆に、歯を離す回数を増やすことは、あごの筋肉を休ませる時間を増やすことにつながります。あごの痛みや口の開けにくさが続くときは、我慢せず歯科医院で相談してみてください。

参考文献・出典

歯ぎしり・食いしばり
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この記事を書いた人
しょう

現役歯科医師(臨床経験10年以上)。むし歯・歯周病の治療から、ジルコニア・セラミックなど自費の補綴治療まで幅広く診療しています。「もっと早く知っていれば」を減らせるよう、診療室で患者さんに話すような内容を、臨床経験と公的機関・学会の情報をもとにわかりやすく発信しています。

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