フロスを使ったら糸が赤く染まっていた。歯みがきでは血なんて出ないのに、と不安になった方は多いと思います。「傷つけてしまったのかな」「歯周病なのかな」と、手が止まってしまうこともありますよね。
先に結論をお伝えします。フロスでの出血は、多くの場合「フロスをやめるサイン」ではなく「歯ぐきが炎症を起こしているサイン」です。むしろ続けることで落ち着いていくケースがほとんどです。ただし、なかには歯科医院で診てもらったほうがよい出血もあります。
この記事では現役歯科医師の立場から、フロスで血が出る原因と、そのまま続けて様子を見ていい出血と歯科医院に相談してほしい出血の見分け方を整理します。あわせて、出血しにくい使い方のコツもお伝えします。フロス選びから見直したい方はデンタルフロスの選び方もあわせてどうぞ。
フロスで血が出るのは大丈夫?【結論:軽い出血なら続けて様子見できることも】

結論から言うと、フロスを使い始めた時期の軽い出血は、力を弱めてケアを続けながら様子を見られることがあります。強い痛みや腫れがなく、数日たつと血の量が減ってくる場合は、よい経過です。ただし、出血が続く場合やほかの症状がある場合は、歯科医院で検査を受けてください。
フロスの出血は「歯ぐきが炎症を起こしている」サイン
歯肉炎とは、歯と歯ぐきのすき間から入った細菌が歯ぐきに炎症を起こした状態のことです。炎症が起きた歯ぐきは血管がもろくなり、少しの刺激でも血がにじみます。
つまり出血は、フロスが歯ぐきを傷つけたから起きるとは限りません。すでに炎症を起こしていた場所を、フロスが通ったことで見つけたという順番のことが多いのです。健康な歯ぐきは、正しく使えばフロスでも歯ブラシでも簡単には出血しません。
そして炎症のもとになっているのは、歯と歯の間にたまった歯垢(プラーク/細菌のかたまり)です。歯ブラシの毛先は歯と歯の間まで届きにくく、フロスはそこを掃除するための道具です。血が出た場所は、今まで掃除しきれていなかった場所であることが多いといえます。ただし、フロスの強い操作による傷や、詰め物のふちなどが関係していることもあります。
出血する人は珍しいの?
珍しくありません。国の調査では、全年齢層のおよそ4割の人に歯ぐきからの出血が認められています。年齢が上がると増えるわけでもなく、どの年代でも4割前後と、ほぼ一定です。これは歯科検診で調べたときの割合で、「フロスをすると4割の人が出血する」という意味ではありませんが、出血しやすい歯ぐきを持つ人がそれだけ多いことを示しています。
一方で、歯ぐきの不調を自分で感じている人は、65歳未満の成人でおよそ15%前後にとどまります。出血がある人の数と、自覚している人の数には大きな開きがあるということです。多くの人は、出血に気づかないまま毎日を過ごしています。
この意味で、フロスで血が出たのは残念な出来事ではありません。歯ブラシだけでは気づけなかったサインに、早い段階で気づけたということです。

血が出るとびっくりして、やめたくなるよね。でも、もったいないんだ。血が出る場所は、汚れがたまって歯ぐきが炎症を起こしていることが多い。フロスがそのサインを見つけてくれた、と考えてみてほしいな。
「血が出るからやめる」がいちばん逆効果
出血を見て怖くなり、その部分だけフロスを避ける方がいます。しかし、これがいちばん避けたい対応です。
炎症の原因は歯垢です。掃除をやめれば歯垢は残り続け、炎症も続きます。出血する場所を避けるということは、いちばん掃除が必要な場所だけを掃除しないということになってしまいます。
歯みがきに加えてフロスを使うと、短期から中期的に歯ぐきの炎症が軽くなる可能性があると報告されています。ただし研究の確実性は高くないとされており、「必ず治る」と言い切れるものではありません。それでも、やめるより続けたほうがよい、というのが今のところの考え方です。
フロスで血が出る4つの原因

フロスでの出血には、大きく4つの原因があります。主な原因は歯ぐきの炎症とフロスの強い操作で、この2つが関係していることが多いです。
① 歯肉炎(歯ぐきの炎症)
多く見られるのが、歯垢によって起きた歯ぐきの炎症です。炎症のある歯ぐきは赤みを帯び、歯と歯の間の部分がぷっくりと丸くふくらみます。この状態でフロスを通すと、軽い刺激でも血がにじみます。
この段階では、炎症は歯ぐきだけにとどまっています。毎日の掃除で歯垢を落としていけば、落ち着いていくことが期待できる状態です。
② フロスの入れ方が強い・速い
2つ目は、使い方によるものです。フロスを勢いよく「パチン」と落とし込むと、歯ぐきの薄い部分に糸が食い込んで傷ができます。この場合は、その場ですぐに血が出て、ズキッとした痛みを伴うことが多いのが特徴です。
炎症による出血が「じわっとにじむ・痛みは強くない」のに対し、傷による出血は「その瞬間に痛い」という違いがあります。ただし、痛みだけで炎症と傷を確実に見分けられるわけではありません。心当たりがある方は、まず入れ方を見直してみてください。
③ しばらくフロスを使っていなかった
3つ目は、久しぶりに再開したケースです。しばらく歯と歯の間の掃除をしていないと、そこに歯垢がたまり、歯ぐきは炎症を起こしやすい状態になります。
実際、歯ぐきが健康な若い人でも口腔清掃をやめると、およそ10〜21日で歯肉炎が起きたという古典的な研究があります。これは日常のフロスの中断だけを調べた研究ではありませんが、しばらく掃除を休めば歯ぐきが炎症を起こしやすくなることを示しています。数週間フロスを休んでいた方が再開して出血するのは、めずらしいことではありません。
④ 薬や体調が関係していることもある
4つ目は、口の中以外の要因です。血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を飲んでいる方は、出血が目立ったり、止まりにくくなったりすることがあります。薬そのものが歯ぐきの炎症を起こすわけではなく、また自己判断で薬をやめてはいけません。妊娠中でホルモンの影響を受けている方も歯ぐきから血が出やすくなることがあり、まれに全身の病気が関係している場合もあります。
こうした要因は、フロスに限らず歯みがきでも出血として現れます。心当たりのある方は、歯ぐきから血が出る原因で全体像を確認してみてください。歯科医院を受診する際は、飲んでいる薬を必ず伝えてください。

炎症の出血か、傷の出血かを見分けるヒントのひとつが「痛み」だね。じわっとにじむだけなら炎症、通した瞬間にズキッとしたなら入れ方が強いのかもしれない。ただ痛みだけで完全に見分けられるわけじゃないから、まずはゆっくり入れることから試してみてほしいな。
続けていい出血・受診すべき出血の見分け方

判断の分かれ目はシンプルです。出血が日ごとに減っていくなら続けて様子見、変わらない・増える・他の症状を伴うなら受診と考えてください。
続けて様子を見ていい出血のサイン
次のような場合は、あわてず毎日のケアを続けて大丈夫です。
- 血がじわっとにじむ程度で、量が少ない
- 強い痛みがない
- 数日から2週間ほどで、出血する日が減ってきた
- 血が出るのは特定の1〜2か所だけで、広がっていない
- 歯ぐきの赤みや腫れが、少しずつ落ち着いてきた
この経過をたどっているなら、掃除がうまくいっているサインです。同じ場所を避けず、毎日ていねいに続けてください。
歯科医院に相談してほしい出血のサイン
一方、次の症状がある場合は、セルフケアだけで解決しないことがあります。歯科医院で検査を受けることをおすすめします。
| こんなサインがあれば | 考えられること |
|---|---|
| 2週間以上ていねいに続けても出血が減らない | 歯石が付いていて、自分では取り除けない可能性 |
| 血だけでなく膿(うみ)が出る | 炎症が歯ぐきの奥まで進んでいる可能性 |
| 歯がグラグラする | 歯を支える骨に影響が出ている可能性 |
| 歯ぐきがときどき腫れる | 炎症が繰り返し起きている可能性 |
| 硬いものが噛みにくい | 歯を支える力が弱まっている可能性 |
| 朝起きたとき口の中がネバネバする・口臭が気になる | 細菌が増えている可能性 |
| 歯ぐきが下がって歯と歯の間にすき間ができた | 歯ぐきの位置が変化している可能性 |
セルフチェック項目は厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周疾患の自覚症状とセルフチェック」をもとに作成
なお、表のいちばん上の「2週間」は厳密な診断の基準ではなく、受診を検討するための実用上の目安です。とくに膿が出る場合と歯がグラグラする場合は、歯ぐきだけの問題にとどまっていない可能性があります。早めに相談してください。より詳しいサインは歯周病の初期症状でも解説しています。
なぜ2週間続けても止まらないことがあるの?
よくある理由のひとつが、歯石が付いていることです。歯石とは、歯垢が固まって歯の表面にこびりついたもののことです。
歯石は表面がざらざらしていて細菌の足場になりますが、歯ブラシやフロスでは落とせません。歯科医院で専用の器具を使って取り除く必要があります。毎日きちんとケアしているのに出血が続く方は、セルフケアが足りないのではなく、道具では届かない相手が残っているだけかもしれません。
歯科医院ではどんなことをするのか気になる方は、歯石取り(スケーリング)や歯周ポケットの数値の意味をご覧ください。

「毎日フロスしてるのに血が止まらない」というときも、ケアが下手なわけじゃないんだ。歯石はフロスでは取れないからね。そこから先は歯科医院の出番だと思ってもらえたら嬉しいな。
血が出ない=健康、とは限らない
逆のパターンにも触れておきます。出血がないから歯ぐきは健康、とは言い切れない場合があります。
とくにタバコを吸う方は注意が必要です。喫煙者は血管が収縮して血のめぐりが悪くなるため、炎症があっても歯ぐきの出血や腫れが現れにくいという特徴があります。サインが出ないぶん、気づいたときには進んでいたということも起こりえます。喫煙習慣のある方は、出血の有無にかかわらず定期的に検査を受けてください。
出血しにくいフロスの使い方は?

出血を減らすうえで大切なのは、力を強くすることではなくゆっくり・歯の面に沿わせることです。汚れは力ではなく、糸を歯の面に当てて動かすことで落ちます。
力加減とスピードのコツ
- まっすぐ押し込まない:糸を前後に小さく動かしながら、のこぎりを引くようにゆっくり入れる
- 歯ぐきの縁までやさしく:接触部を通過したら勢いよく押し込まず、歯の面に沿わせて歯ぐきの縁の内側までゆっくり入れる
- 歯の面に沿わせて動かす:糸をC字に曲げて片方の歯の面に当て、歯ぐきの縁から上へこするように数回動かす。反対側の面にも同じように当てる
- 抜くときもゆっくり:勢いよく引き抜かず、入れたときと同じ道すじで戻す
手順をもっと詳しく知りたい方は、デンタルフロスの使い方で写真を交えて解説しています。
出血する時期は、やさしい糸を選ぶという手も
歯ぐきが敏感な時期は、糸の種類を変えると使いやすくなることがあります。通しにくさや痛みがある場合は、ワックス付きなど通しやすいタイプを試す方法があります。歯間の状態に合う種類は、歯科医院で相談すると選びやすくなります。
また、歯と歯のすき間が大きい場所は、フロスより歯間ブラシのほうが向いています。ただしサイズが大きすぎると歯ぐきを傷めるため、すき間より少し小さめを選んでください。道具の使い分けはフロスと歯間ブラシの違いにまとめています。
いつまで続ければ出血は減るの?
目安は数日から2週間程度です。歯ぐきが健康な若い人を対象にした古典的な研究では、いったん歯肉炎を起こしたあと、口腔清掃を再開しておよそ1週間で歯ぐきが元の状態に戻ったと報告されています。
ただしこれは若く健康な人での結果で、実際には個人差があります。歯石が付いている場合や炎症が長く続いていた場合は、もっと時間がかかります。なお、2週間は厳密な診断基準ではなく、受診を検討するための実用上の目安です。2週間を過ぎても出血が減らないなら、セルフケアの期間を延ばすより歯科医院で相談したほうが早いと考えてください。

ひとつの目安になるのが「2週間」だね。それまでに血が減ってきたら順調のサイン。変わらなければ、フロスでは取れない歯石が付いているのかもしれない。そんなときは、ひとりで悩み続けるより一度診てもらったほうが早いよ。
よくある質問(FAQ)
Q. 血が出た日は、その場所のフロスをやめたほうがいいですか?
A. やめる必要はありません。出血している場所は、汚れがたまって炎症を起こしていることが多い場所です。力を弱め、ゆっくり動かしながら続けてください。強い痛みがあるときだけは、無理に続けないでください。
Q. フロスをすると血の味やにおいがします。大丈夫でしょうか?
A. 血の味は出血が、においは歯と歯の間にたまった細菌が原因のことが多いです。どちらも、掃除を続けると軽くなっていくことが多い症状です。
Q. 毎回同じ場所だけ血が出ます。
A. その場所に汚れが残りやすい、あるいは炎症が強く残っている可能性があります。詰め物のふちが引っかかっているなど、その場所特有の理由があることもあるため、一度歯科医院で見てもらうと安心です。
Q. 血が出るのが怖くて、うがい薬だけで済ませてはだめですか?
A. うがいだけでは、歯と歯の間にこびりついた歯垢は落とせません。歯垢は物理的にこすり落とす必要があるため、フロスの代わりにはなりません。
Q. 妊娠中に出血しやすいのはなぜですか?
A. ホルモンの変化によって歯ぐきが炎症を起こしやすくなるためです。強くこすらず、やわらかい歯ブラシとフロスでていねいに続けてください。出産後にホルモンが元に戻ると、自然に落ち着いていくことが多い症状です。
Q. 子どもがフロスで出血しました。大人と同じ考え方でいいですか?
A. 基本の考え方は同じで、多くは歯ぐきの炎症によるものです。ただし力の加減が難しいため、慣れるまでは保護者の方が行うか、操作しやすいホルダー付きのフロスを使い、歯ぐきに強く押し込まないようにしてください。
まとめ:出血は「気づけたサイン」

フロスで血が出ると驚きますが、多くの場合それは失敗ではなく、歯ぐきからのサインに気づけたということです。この記事の要点をまとめます。
- フロスでの出血は、多くが歯ぐきの炎症のサイン。フロスが傷つけたとは限らない
- 出血する場所は汚れがたまって炎症を起こしていることが多い。避けずに続けるのが基本
- 力を強くするのではなく、ゆっくり・歯の面に沿わせるのがコツ
- 数日から2週間で出血が減ってくれば、順調な経過
- 2週間以上減らない、膿が出る、歯がグラグラする場合は歯科医院へ
- タバコを吸う方は出血が現れにくいため、症状がなくても定期的な検査を
歯ぐきの状態は、自分では見えない部分ほど差が出ます。出血が気になる方も、逆に出血がなくて安心している方も、一度検査を受けておくと今の状態がはっきりします。歯科検診で何をするのかもあわせてご覧ください。毎日のフロスと定期的な検査、この2つがそろうと歯ぐきは守りやすくなります。
参考文献・出典
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周疾患の有病状況」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周病とは」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周疾患の自覚症状とセルフチェック」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯間部清掃(デンタルフロス・歯間ブラシ)」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙と歯周病の関係」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周病の予防と治療」
- 日本臨床歯周病学会「歯周病とは」
- Löe H, Theilade E, Jensen SB. Experimental Gingivitis in Man. J Periodontol. 1965;36(3):177-187.
- Worthington HV, et al. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019.



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