タバコと歯周病|「気づいたら重症」になりやすい理由と禁煙の効果

歯周病

「タバコが体に悪いのはわかっているけれど、歯ぐきにも関係あるの?」——そんな疑問を持つ方は少なくありません。健診で歯周病を指摘された方や、家族の喫煙が気になっている方も多いと思います。

結論から言うと、喫煙は歯周病の代表的なリスク要因です。しかもやっかいなのは、喫煙している方の歯ぐきは「悪くなっているのに、悪そうに見えない」という点にあります。

この記事では、タバコで歯周病が進む理由やリスクの大きさ、加熱式タバコ・受動喫煙の影響、禁煙後の歯ぐきの変化までを、現役歯科医師が公的機関・学会のデータをもとに整理しました。

タバコを吸うと歯周病になりやすいって本当?

本当です。厚生労働省は、喫煙と歯周病の関係について「因果関係を推定する証拠が十分」と評価しています。数ある喫煙の影響のなかでも、歯周病は最も証拠がそろっているグループに入ります。

歯周病とは、歯周病菌に対する体の炎症反応によって、歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)が壊されていく病気のことです。進行すると歯がぐらつき、最終的には歯を失う原因になります。喫煙は、この進行を加速させる代表的な要因として位置づけられています。

喫煙者の歯周病リスクは非喫煙者の何倍?

調査によって数字は変わりますが、条件によっては3倍以上になると報告されています。「何倍」という数字は、対象とした人や喫煙量、どの重症度を数えたかによって変わるため、一つに定まりません。主なデータを整理すると次のようになります。

条件歯周病のリスク出典
1日10本以上吸っている5.4倍日本臨床歯周病学会
10年以上吸っている4.3倍日本臨床歯周病学会
喫煙者(男性・重度の歯周病)約3.3倍国立がん研究センター 多目的コホート研究
出典:日本臨床歯周病学会「歯周病と煙草の関係」、国立がん研究センター多目的コホート研究「受動喫煙と歯周病のリスクとの関連について」。国立がん研究センターの数値は、受動喫煙の経験がない非喫煙者を1としたときの比較です。

吸う本数・年数が多いほどリスクは上がる?

その傾向が報告されています。上の表のとおり、本数が多い人ほど、また喫煙年数が長い人ほど、歯周病になる危険度は高くなる傾向が示されています。さらに、発症するだけでなく重症化しやすいことも指摘されています。

つまりタバコは「吸うか吸わないか」の二択ではなく、積み重なった量が効いてくるタイプのリスクだと考えるとイメージしやすいと思います。

しょう

口の中を見せてもらうと、歯ぐきの色や硬さ、着色の付き方から「吸っているのかな」と感じることがあるんだ。もちろん見た目だけで決めつけはできないから、問診と検査を合わせて判断するけれど、タバコは口の中にそれくらい跡を残すものなんだよ。

なぜタバコは歯ぐきに悪いのか?3つの理由

タバコが歯周病を進める理由は、大きく「血流」「免疫」「治す力」の3つにまとめられます。細菌を増やすというより、細菌と戦う体の側を弱らせるのがタバコの作用です。

理由1|血流が悪くなり、歯ぐきに栄養が届かない

ニコチンには血管を縮める作用があります。この作用や長期間の喫煙の影響が重なることで、歯ぐきの細かい血のめぐりや酸素の供給が損なわれていきます。あわせて、タバコの煙に含まれる一酸化炭素も、組織への酸素の供給を妨げます。

歯ぐきは、常に細菌と接している場所です。そこへの補給路が細くなれば、細菌に対する防御のはたらきも弱まってしまいます。

理由2|免疫の力が下がり、細菌と戦えなくなる

喫煙は、体を守る免疫のはたらきを抑えてしまいます。細菌を食べて処理する白血球(好中球)の力や、細菌をとらえる抗体のはたらきが低下することが報告されています。

歯周病は、細菌の量だけでなく「体がどれだけ抵抗できるか」で進み方が変わります。歯みがきだけでは補えない喫煙特有のリスクがあるため、発症や進行の面で喫煙者のほうが不利になるのはこのためです。

理由3|傷を治す力が落ち、治療しても治りにくい

ニコチンは、歯ぐきの修復に関わる細胞のはたらきを抑えます。組織をつくる線維芽細胞の増殖やコラーゲンをつくる力が落ちるため、いったん壊れた部分が元に戻りにくくなります。

実際、喫煙している方は歯石取りなどの歯周病治療を受けても、処置後の治りが良くない傾向があることが指摘されています。「ちゃんと通っているのに、なかなか良くならない」の背景にタバコがあるケースは少なくありません。

喫煙者の歯周病が「気づいたら重症」になりやすいのはなぜ?

喫煙していると、歯周病のいちばん分かりやすいサインである「出血」が出にくくなるからです。ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

出血しないから安心、ではない?

残念ながら、安心の材料にはなりません。血管が縮んで血のめぐりが悪くなっているため、炎症が起きていても歯ぐきの出血や腫れが表に出にくいのです。

特に注意したいのは、歯周ポケットが深く進行した状態でも出血が少ないという点です。歯ぐきの見た目は落ち着いているのに、内部では歯を支える骨の吸収(骨が減っていくこと)が進んでいます。喫煙している方の歯ぐきでは、こうした「見た目と中身のズレ」が起こります。

「歯みがきで血が出なくなったから治った」と感じている方もいますが、それが実は、喫煙によって症状が隠されているだけのこともあります。歯ぐきからの出血は大切なサインですが、喫煙者ではそのサインが働きにくい、と知っておいてください。

しょう

「血が出ないから大丈夫」と言われることがあるけど、じつは喫煙している人ほどこの言葉は当てにならないんだ。検査してみると、出血はほとんどないのにポケットは深い、というパターンがけっこうある。自覚症状より検査の数字を信じてほしいところだね。

歯ぐきの色や見た目にはどんな変化が出る?

歯ぐきが硬く分厚くなり、赤黒く色素沈着することが多くなります。喫煙している方の歯ぐきには、次のような特徴があると整理されています。

喫煙者に見られやすい歯ぐきの特徴
歯ぐきのふちがかたく厚くなる
重症度のわりに、赤みや腫れ・むくみが軽く見える
歯垢や歯石の付着量と、実際の病状が一致しない
同年代の非喫煙者と比べて、病状が重い
歯の表面に着色が付く
歯ぐきにメラニン色素が沈着する(赤黒い着色)
出典:日本歯科医師会「テーマパーク8020/禁煙がもたらすもの」の表「喫煙者特有の歯周病所見」をもとに作成

「歯垢はそれほど多くないのに、歯周病は進んでいる」という組み合わせは、喫煙者の口の中で実際によく見られます。だからこそ、自分の見た目の印象だけで判断せず、歯周ポケットの検査で数値を確かめることが大切になります。

加熱式タバコなら歯周病にならない?

「安全だ」と言える根拠は、現時点ではありません。紙巻きタバコより害が少ないと感じている方は多いのですが、口の中への長期的な影響はまだ分かっていない、というのが学会の立場です。

加熱式タバコにもニコチンは含まれている?

含まれています。学会の見解によれば、加熱式タバコには紙巻きタバコとほぼ同量のニコチンが含まれるとされています。ニコチンは、これまで説明してきた「血管を縮める」「治す力を落とす」作用の中心になる物質です。

また、加熱式タバコから出るエアロゾル(蒸気)にも、ニコチンや発がん性物質などの有害な化学物質が含まれることが指摘されています。吐き出されたエアロゾルについても同様です。

学会はどう見ている?

「臨床的に安全性を示す根拠がない」というのが日本歯周病学会の見解です。加熱式タバコは歯の着色や歯ぐきへの損傷が少ないと宣伝されることがありますが、その多くはタバコ会社側のデータであり、安全性の裏づけにはなっていないと指摘しています。

さらに、口腔に関わる9つの学会の合同委員会も、加熱式タバコについて次の点を挙げています。

  • 市場に出てからの歴史が浅く、長期的な健康影響は不明。口の中への影響も同様に不明
  • 有害な化学物質の曝露に「ここまでなら安全」という線引きはない
  • タバコ関連の病気のリスクが減るという科学的根拠は、現時点ではない
  • ニコチン依存は続くため、かえって禁煙が難しくなる可能性がある

つまり加熱式タバコへの切り替えは、「歯ぐきのための対策」としては期待できないと考えておくのが安全です。

しょう

「紙巻きより加熱式のほうが歯ぐきにやさしそう」と思われがちだよね。でも、歯ぐきの立場から言うとニコチンはほぼ同じだけ入っているんだ。加熱式に替えても歯周病への影響がなくなるとは言えないから、歯ぐきのためのゴールはあくまで禁煙、と考えておくのが安心だよ。

受動喫煙でも歯周病のリスクは上がる?(家族への影響)

吸っていない人でも、リスクが上がる可能性が報告されています。日本人を対象にした調査では、家庭で受動喫煙のある男性の非喫煙者は、受動喫煙のない非喫煙者と比べて重度歯周病のリスクが高い傾向が示されました。

男性・非喫煙者の受動喫煙の状況重度歯周病のリスク
受動喫煙なし1(基準)
家庭のみで受動喫煙あり約3.1倍
家庭と家庭以外の両方で受動喫煙あり約3.6倍
(参考)本人が喫煙者約3.3倍
出典:国立がん研究センター 多目的コホート研究「受動喫煙と歯周病のリスクとの関連について」(解析対象1,164人)。この研究での「重度歯周病」は、6mm以上の歯周ポケットが1歯以上ある状態と定義されています。

なお、この調査で女性では喫煙状況と歯周病の関連は認められませんでした。ただしその理由ははっきりしておらず、「女性なら影響がない」という意味ではありません。対象となった女性に喫煙者が非常に少なく、影響を十分に検討できなかったことが研究上の限界として挙げられています。受動喫煙の量も質問票による調査のため、実際にどれだけ吸い込んだかは分かっていません。

また、受動喫煙によって子どもの虫歯や、歯ぐきのメラニン色素沈着のリスクが高くなるという報告もあります。タバコは吸っている本人だけの問題ではない、という視点は持っておきたいところです。

禁煙すると歯ぐきは回復する?

回復に向かいます。しかも、歯ぐきの血流のような変化は、思っているよりずっと早く現れます。禁煙によって歯周病のリスクは下がり、治療の効果も上がることが分かっています。

禁煙するとまず何が変わる?

歯ぐきの血流は、数日単位で戻り始めます。歯周炎のない若い喫煙者16人を対象にした小規模な研究では、歯ぐきの血流量が禁煙3日後に上がり始め、5日後には非喫煙者と同じレベルまで回復したと報告されています。

興味深いのは、このとき歯ぐきからの滲出液がいったん増えることです。一見すると悪化に見えますが、これはタバコで抑え込まれていた炎症反応が本来の姿に戻ったサインと考えられています。禁煙後に「歯ぐきから血が出るようになった」と感じる場合も、こうした変化が関係していることがあります。ただし出血は歯周病のサインでもあるため、続くようなら一度歯科医院で検査を受けてください。

歯周病治療の効きやすさは変わる?

変わります。歯石取り(スケーリング・ルートプレーニング)の効果を比べた調査では、過去に喫煙していてやめた人(前喫煙者)は、もともと吸っていない人に近い改善を示したのに対し、吸い続けている人は改善の度合いが明らかに劣っていました。

「今さらやめても遅い」と感じる方もいますが、禁煙している期間が長くなるほど、歯ぐきの状態や治療への反応が良くなっていくことが期待できます。禁煙は、歯周病治療の効果を高める大切な要素です。

歯を失うリスクはどのくらいで下がる?

下がり始めるのは禁煙1年後から、非喫煙者と同じ水準になるまでには10年以上かかると報告されています。男性を長期間追跡した研究では、次のような変化が示されています。

喫煙の状況歯を失うリスク(非喫煙者を1とした場合)
吸い続けている2.1
禁煙して10年1.6(統計的に意味のある差ではなくなる)
禁煙して13〜15年1.0(非喫煙者と同じ水準)
出典:日本歯科医師会「テーマパーク8020/禁煙がもたらすもの」。男性789名を最長35年間追跡した研究をもとに作成

10年と聞くと気が遠くなるかもしれません。ただ、大事なのは禁煙した1年後にはもう低下が始まっていることと、歯ぐきの状態や治療の効きやすさはもっと早く改善することです。歯を失うかどうかという最終結果に追いつくまでに時間がかかるだけで、体は禁煙したその週から反応しています。

禁煙しないと歯周病治療は受けられない?

そんなことはありません。喫煙していても、検査も歯石取りも歯周病の治療もふつうに受けられます。

ただし、治療の効果が出にくいことと、症状が表に出にくいことから、より丁寧な検査と、その人に合った間隔での定期検診が大切になります。適切な間隔は、歯周病の重症度や治療への反応、セルフケアの状況を見て決まります。禁煙が難しい場合でも、通院を続けることには十分な意味があります。

しょう

「吸っているから歯医者に行きづらい」と感じてしまう人もいるかもしれないね。でも、吸っていても治療はできるし、むしろ吸っている人ほど定期的に診せてほしいんだ。喫煙について聞くのは責めるためじゃなくて、検査の見方を変えるためだよ。

よくある質問(FAQ)

Q. タバコを吸っていると歯ぐきが黒くなるのはなぜ?
A. 歯ぐきにメラニン色素が沈着するためです。これは喫煙している方の歯ぐきに見られやすい特徴のひとつとして挙げられており、受動喫煙でも起こることが報告されています。色の付き方には個人差があります。

Q. 1日数本しか吸わなくても歯周病リスクは上がりますか?
A. 少量なら安全、とは言えません。喫煙は量と年数が積み重なるほどリスクが上がるため、本数が少ないほどリスクは低くなる傾向はあります。ただし本数を減らすことは禁煙の代わりにはならず、歯ぐきにとっての目標は、あくまで禁煙です。

Q. 加熱式タバコに変えれば歯の着色は減りますか?
A. 着色が減ったと感じる方はいますが、歯周病のリスクが下がる根拠にはなりません。ニコチンは紙巻きタバコとほぼ同量含まれており、口の中への長期的な影響も分かっていないためです。

Q. 禁煙外来は健康保険で受けられますか?
A. 所定の要件をすべて満たし、届出をした医療機関で受ける場合に保険が使えます。おもな要件は、スクリーニングテストでニコチン依存症と診断されること、35歳以上では1日の喫煙本数×喫煙年数が200以上であること、直ちに禁煙を希望し、治療について説明を受けて文書で同意することです。35歳未満は本数や年数を問いません。治療は12週間で5回の診察が基本で、加熱式たばこを使っている方も対象になります。

Q. 喫煙者でも歯周病は治せますか?
A. 治療によって進行を抑え、状態を改善させることはできます。ただし喫煙していない方と比べると改善の度合いは劣りやすく、いったん失った骨が元どおりになるわけでもありません。効果を最大にしたい場合は、禁煙と治療を並行するのがいちばんの近道です。

Q. 禁煙したら歯ぐきから血が出るようになりました。悪化したのでしょうか?
A. タバコで抑え込まれていた炎症反応が戻ってきた可能性があります。もともとあった歯周病が見えるようになった状態とも言えるため、悪化と決めつけず、一度歯科医院で検査を受けてみてください。

まとめ|タバコと歯周病の関係

タバコは、歯周病の原因として「証拠が十分」と評価されている、はっきりしたリスク要因です。血流を減らし、免疫を抑え、治す力を落とすことで、細菌と戦う体の側を弱らせます。

そして何より注意したいのが、喫煙していると出血や腫れが表に出にくく、進行に気づきにくいことです。「血が出ないから大丈夫」と思っているうちに進んでしまう——ここが、喫煙者の歯周病で特に気をつけたい点だと感じています。

一方で、禁煙すれば歯ぐきの血流は数日で戻り始め、治療の効きやすさも吸っていない人に近づいていきます。すぐにやめるのが難しくても、まずは今の歯ぐきの状態を検査で知ることから始めてみてください。気になる症状がある方は、早めに歯科医院で相談することをおすすめします。

あわせて、歯周病の初期症状や、歯周病の予防方法もチェックしてみてください。

参考文献・出典

歯周病
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この記事を書いた人

現役歯科医師(臨床経験10年以上)。むし歯・歯周病の治療から、ジルコニア・セラミックなど自費の補綴治療まで幅広く診療しています。「もっと早く知っていれば」を減らせるよう、診療室で患者さんに話すような内容を、臨床経験と公的機関・学会の情報をもとにわかりやすく発信しています。

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