「唾液なんて、普段まったく意識したことがない」——そんな方がほとんどだと思います。ところが唾液は、虫歯や歯周病から歯を守り、食事や会話を助けている、お口にとって欠かせない存在です。
そして唾液が減ると、今までと同じように歯を磨いていても虫歯が増えることがあります。口の乾きが気になっている方は、ドライマウスの原因と対策もあわせてご覧ください。
この記事では、現役歯科医師の自分が、唾液の働き・少ないとどうなるか・増やすためにできることを、わかりやすく解説します。
唾液は1日にどれくらい出ている?

健康な成人の唾液は、1日あたり約1〜1.5リットル分泌されています。500mLのペットボトル2〜3本分に相当する量です。ふだん意識することはありませんが、それだけの唾液がお口の中を潤し続けています。
唾液はどこから出るの?
唾液は、主に3つの大きな唾液腺(だえきせん)から分泌されます。それぞれ出てくる唾液の性質が異なります。
| 唾液腺 | 場所 | 出てくる唾液 |
|---|---|---|
| 耳下腺(じかせん) | 耳の前あたり | さらさらした唾液(漿液性)。刺激で分泌量が増える |
| 顎下腺(がっかせん) | 顎の骨の内側 | 混合しているが、主にさらさらした唾液 |
| 舌下腺(ぜっかせん) | 舌の付け根の下 | 混合しているが、主にねばりのある唾液 |
唾液腺マッサージで「耳の前」と「顎の下」を刺激するのは、この3つの唾液腺の場所に対応しているためです。
サラサラ唾液とネバネバ唾液は何が違う?
サラサラした唾液は主に食事のときに多く出て、汚れを洗い流す働きが得意です。一方、ねばりのある唾液は粘膜を覆って保護する役割を担っています。どちらか一方が良い・悪いというものではなく、役割が違います。
緊張したときに口の中がネバついた経験はありませんか。人前で話す前など、緊張した場面ではさらさらした唾液が出にくくなり、ねばつきを感じやすくなります。リラックスしているときのほうが、さらさらした唾液は出やすくなります。

唾液って、量ばかり注目されがちなんだけど、口の潤い方やネバつきの感じ方も人それぞれなんだ。よく噛むことは、食事中の唾液の分泌をうながす身近な方法だよ。
唾液の6つの働き|お口を守るしくみ

唾液は「ただの水分」ではなく、お口を守るさまざまな成分を含んだ液体です。代表的な働きを6つ紹介します。
①洗浄作用|汚れを洗い流す
唾液は、お口の中の細菌や食べかすを洗い流します(自浄作用)。この働きは、食事中に噛むことで活発になります。逆に、唾液が少ないと汚れが残りやすくなります。
②抗菌作用|細菌の増殖を抑える
唾液には、細菌の活動を抑えるさまざまな物質が含まれています。リゾチーム、ペルオキシダーゼ、免疫グロブリン、ラクトフェリンなどがその代表です。歯を磨けない時間帯にもお口が守られているのは、この働きがあるためです。
③再石灰化作用|初期の脱灰を修復する
唾液に含まれるカルシウムイオン・リン酸イオン・フッ素イオンは、脱灰した歯質の再石灰化を促します。これを再石灰化(さいせっかいか)といいます。
食事のたびに歯の表面からミネラルが溶け出す「脱灰(だっかい)」が起きていますが、唾液の再石灰化がそれを補っています。ただし、修復が期待できるのは初期の脱灰した部分までで、穴があいてしまった歯が元どおりになるわけではありません。この2つのバランスが崩れて脱灰が優勢になると、虫歯へと進みます。
④緩衝作用|酸を中和して歯を守る
唾液に含まれる炭酸・重炭酸・リン酸などが、お口の中が急に酸性やアルカリ性に傾かないよう中和します。これにより、歯垢(プラーク/細菌のかたまり)のpHが酸性に傾いて脱灰が進むのを抑えています。
⑤消化作用|でんぷんを分解する
唾液に含まれる消化酵素アミラーゼが、でんぷんを麦芽糖に分解します。ごはんをよく噛むと甘みを感じるのは、この働きによるものです。消化は、お口の中からすでに始まっています。
⑥粘膜保護・潤滑作用|話す・飲み込むを助ける
唾液が歯や粘膜を覆うことで、刺激や感染から守り、舌やのどの動きをなめらかにします。すらすら話せるのも、食べ物をスムーズに飲み込めるのも、唾液の潤いがあってこそです。
このほか、唾液には味を感じるのを助ける働き(味物質が唾液に溶けて味蕾の受容体と反応する)や、お口の中の傷の治りを助ける働きもあります。

歯磨きは1日に数回だけど、唾液は歯磨きの合間にもお口を守ってくれているんだ(ただし睡眠中は分泌が少なくなる)。「しっかり磨いているのに虫歯ができる」という人は、磨き方だけでなく唾液の状態も関係しているかもしれないね。
唾液が少ないとどうなる?お口への影響

唾液が少なくなると、これまで見てきた守る働きが弱まり、お口のトラブルが起こりやすくなります。
なお、口の乾きを自覚する状態は「ドライマウス(口腔乾燥)」と呼ばれますが、乾きの感じ方と実際の唾液の量は必ずしも一致しません。検査では唾液の量が保たれているのに乾きがつらい場合もあれば、その逆もあります。詳しくはドライマウスの原因と対策で解説しています。
虫歯が増えやすくなる
唾液が減ると、洗浄・抗菌・再石灰化・緩衝という虫歯を防ぐ4つの働きが同時に弱まります。だからこそ、唾液の減少は虫歯のリスクを大きく左右します。歯磨きの習慣を変えていないのに虫歯が増えてきた場合は、唾液の量が減っていないか気にしてみてください。
歯周病にも注意が必要になる
口が乾くと歯垢が残りやすくなるため、ほかの要因とあわせて歯周病にも注意が必要になります。唾液には細菌の活動を抑える抗菌作用があり、それが弱まることは歯ぐきにとってもマイナスに働きます。ただし歯周病には、歯垢の量や喫煙、糖尿病など複数の要因が関係します。歯周病の初期症状もあわせて確認しておきましょう。
口臭・ネバつき・話しにくさ
唾液が減ると、口の中のネバネバ感、ヒリヒリした痛み、歯垢の増加、口臭の強まりといった症状が現れます。さらに乾燥が進むと、舌の表面がひび割れたり、痛みで食事がとりづらくなったり、長く話すのがつらくなることもあります。口臭については口臭の原因と対策で詳しく解説しています。
味がわかりにくくなる・飲み込みにくくなる
唾液は、味を感じることと飲み込むことの両方に関わっています。食べ物の味成分は唾液に溶けて初めて味を感じる仕組みのため、唾液が減ると味がわかりにくくなることがあります。また、食べ物をまとめて飲み込みにくくなるため、とくに高齢の方では注意が必要です。
唾液を減らさない・増やすためにできること

唾液を保つ基本は、「よく噛むこと」と「乾かさないこと」です。今日から始められる工夫を紹介します。
よく噛んで食べる

噛むことは、唾液腺への最も身近な刺激です。食事中の咀嚼によって洗浄作用も活発になるため、よく噛むことは一石二鳥といえます。やわらかいものばかりだと噛む回数が減りがちなので、歯や入れ歯の状態、飲み込む力に問題がない範囲で、噛みごたえのある食材も取り入れてみましょう。歯や顎の関節、飲み込む力に問題がなければ、糖類を含まないガムを利用する方法もあります。
こまめな水分補給と鼻呼吸
脱水は口の乾きを悪化させるため、適度な水分補給を心がけましょう。一度に大量に飲むより、少量ずつ回数を分けるのがポイントです。ただし、水分をとることだけで唾液が減っている原因そのものが解消するとは限りません。また、口で呼吸するクセがあると唾液が蒸発しやすくなります。鼻づまりがある場合は、耳鼻科で相談すると口の乾きの改善につながることもあります。
唾液腺マッサージを習慣にする
唾液腺マッサージは、耳の前や顎の下を指でやさしく刺激する方法です。耳たぶの少し前(耳下腺)、顎の骨の内側(顎下腺)、顎の先の真下(舌下腺)を、痛くない強さで刺激します。効果の大きさには個人差がありますが、道具がいらず、いつでもできるのが利点です。

唾液のためにできることって、地味なものばかりなんだ。だからこそ、気合いを入れてやるより「テレビを見ながら」「歯磨きの前に」くらいの気軽さがちょうどいい。無理のない範囲で生活に取り入れると、続けやすいよ。
気になるときは歯科で相談する|何を確認するの?
セルフケアを続けても乾きが改善しない場合は、歯科で相談しましょう。歯科では、次のような点を確認しながら原因を探っていきます。
- 粘膜や舌の状態、唾液のたまり方などの口の中の所見
- 虫歯の増え方や歯垢のつき方の変化
- 服用している薬の内容(お薬手帳があると手がかりになります)
- 必要に応じて、唾液の量を調べる検査
唾液の減少には薬の副作用や全身の病気が関係していることもあり、その場合は内科などへの相談をすすめることもあります。
早めに受診したほうがよいサイン
次のような場合は、早めに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科で相談してください。
- 急に唾液が出なくなった
- 顎の下や耳の下が腫れて痛む
- 口だけでなく目の乾きも強い

口の乾きは、原因によって対応がぜんぜん違うんだ。薬が関係していることもあれば、体の病気が隠れていることもある。だから、乾きが続くときは早めに相談してほしいな。
唾液に関するよくある質問
Q. 唾液が多い人と少ない人がいるのはなぜですか?
A. 唾液の量には個人差があり、服用している薬、年齢に伴う変化、全身の病気、体の水分状態、口呼吸のクセ、ストレスなどが影響します。とくに薬の影響は大きく、複数の薬を服用している方では乾燥がみられやすい傾向がありますが、その出方は薬の数だけでなく種類や作用によって異なります。
Q. 唾液の量は自分で測れますか?
A. 正確な測定は歯科などで行う検査が必要です。目安として、食事のときに水やお茶で流し込むクセがある、夜中に乾きで目が覚める、といったサインがあれば、唾液が減っている可能性があります。
Q. すっぱいものを食べると唾液が増えると聞きましたが本当ですか?
A. 梅干しやレモンを想像すると唾液が出るように、酸味の刺激で一時的に唾液が出やすくなるのは確かです。ただし酸そのものは歯の表面を溶かす方向に働くため、酸味の強い食品を頻繁にとるのはおすすめしません。日常的には、よく噛むことやシュガーレスガムのほうが安心です。
Q. 寝ている間は唾液が減るのですか?
A. 睡眠中は唾液の分泌が少なくなります。朝起きたときに口がネバついたり、においが気になったりしやすいのはこのためです。就寝前の歯磨きが特に大切なのは、唾液の守る力が弱まる時間帯に備えるためでもあります。
Q. 唾液が少ないと虫歯になりやすいですか?
A. なりやすい傾向があります。唾液には汚れを洗い流す・細菌を抑える・酸を中和する・初期の脱灰を再石灰化するという働きがあり、それらが弱まるためです。同じケアをしていても虫歯が増えてきた場合は、歯科で相談してみてください。
まとめ|唾液はお口を守る「天然の防御液」

唾液は1日に約1〜1.5リットル分泌され、洗浄・抗菌・再石灰化・緩衝・消化・粘膜保護という多くの働きでお口を守っています。その量が減ると、虫歯や歯周病、口臭のリスクが高まります。
よく噛む、こまめに水分をとる、鼻で呼吸する、唾液腺マッサージを習慣にする——どれも地味ですが、続けることに意味があります。乾きが気になるときは我慢せず、かかりつけの歯科医院で相談してみてください。



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